WHO(世界保健機関)、UNODC(国連薬物・犯罪事務所)をはじめ13の国連機関により、「新型コロナウイルス(COVID-19)に関連するアジア太平洋地域における薬物の強制回復・収容施設について」という共同声明があります(2020年6月1日に発行)。
NYANでは、この声明の日本語仮訳を作成しました。
この声明では、アジア太平洋地域における薬物の強制回復・収容施設を、遅滞なく恒久的に閉鎖するとともに、地域において権利が尊重され、科学的に実証された治療やサービスを誰もが自発的に利用できるシステムへ移行することが要請されています。
日本社会にも関係することが、少なくともいくつか挙げられます。
刑務所や保護観察、警察や麻薬取締部による回復という関わり方の多くが、自発的なものではなく、権利の軽視(支援という関わりのなかで通報する等)が潜み、そのシステムが科学的に実証されていません(少しずつ移行している状況です)。
もうひとつは、日本政府はフィリピンに18億円以上の無償資金供与をおこない薬物依存症治療に関するプロジェクトを実施しています。そのなかに、強制回復・収容に類する施設を新たに建築する内容が含まれています(フィリピン政府の意向に依るものです)。
共同声明の仮訳本文は以下のとおりです。
原文のPDFファイル(英語)はこちらからダウンロードできます。
仮訳のPDFファイル(日本語仮訳版)はこちらからダウンロードできます。
共同声明
新型コロナウイルスに関連するアジア太平洋地域に
おける薬物の強制回復・収容施設について
2020年6月1日
新型コロナウイルスの影響を鑑み、薬物の強制回復・収容施設に関する2012年の共同声明1と、刑務所及びその他の閉鎖的な環境における新型コロナウイルスに関する2020年の共同声明2を受け、国連諸機関は薬物の強制回復・収容施設について、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制する対策として、かつ施設の入所者が家族や地域社会に戻り回復と社会復帰することを促進する対策として、薬物の強制回復・収容施設を恒久的に閉鎖し、自発的で、科学的根拠に基づき、そして人権に基づく保健・福祉サービスが地域社会で実施されるよう、加盟国に対して緊急に提言する。
新型コロナウイルスのパンデミックにより、アジア太平洋地域の国々では、誰ひとり取り残されることなく、すべての人にとって効率的で権利が尊重された対策と回復をデザインし実施するにあたり、いくつもの課題が浮き彫りになった。特にウイルスに感染するリスクの高いグループのひとつが、薬物の強制回復・収容施設にいる人々である。例えば、薬物の使用や薬物への依存が疑われる人であったり、セックスワークに関わっていたり、または性的搾取の被害者である子どもたちである。
これらの施設における収容基準は国によって異なるが、しばしば「治療」または「回復」の名の下に十分な手続きや、法的保護措置または司法審査なしに収容されることがある。そして、過剰な収容や身体的な距離を保つための課題なども含め、標準以下の生活環境により、収容されている人はHIV、結核、新型コロナウイルスの感染などに対して、より脆弱な状況に陥ることになる。さらにこれらの施設における収容では、強制労働、不十分な栄養供給、身体的および性的暴力、医療サービスの質とサービスへのアクセスが欠落またはあっても低水準であることが報告されている。
この世界規模の保健の緊急事態において、国連諸機関は、薬物の強制回復・収容施設を運営する加盟国に対し、施設をこれ以上遅滞なく恒久的に閉鎖し、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するための重要な追加措置として収容されている人々を釈放し、そしていかなる形態の収容措置をも控えるように、あらためて要請する。
国連諸機関は、薬物の強制回復・収容施設を恒久的に閉鎖し、薬物依存症治療・薬物使用・人権の国際的なガイドラインと基準に基づき、地域社会において自発的に利用できる治療やサービスが展開される、科学的に実証されたシステムへと移行するための方策を講じることに対して、加盟国と協働する用意がある。