クスリ・ドラッグ・薬物のこと、何でも話せる“OKチャット”はこちら

大麻使用罪の新設をめぐり厚生労働省に意見書を提出しました

    日本政府への意見:社会的孤立を強める大麻使用罪の創設は不要、地域での親切な支援の充実を

    いま政府は大麻使用罪を創る方向に動いています。2022年の5月から9月にかけて大麻使用罪を新設する方向で、厚生労働省の審議会「大麻規制検討小委員会」が4回開かれました。

    2021年にはその前段として「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が開かれ、政府内で次のステップに動いたということなのでしょう。(NYANは、この検討会に対して2021年5月に他団体と連帯して政府に要望書を提出しました。)

    この流れの背景にあるのは、大麻使用罪を設けるべきだというお役人、政治家たち、有識者たちが存在するということでもあるし、きっと社会のなかにも厳罰を与えて取り締まったほうがいい、と考える声が多くあるのでしょう。厳罰だけじゃなくて、罰を与えることで支援につながる、その両方があるからいいのでは、と信じる考えもあるようです。しかしながら、こうした声があがるとき、消されてしまいやすい声があります。もっとも憂慮するのは、厳罰という恐怖や、厳罰により強制された介入(なかには支援と呼ばれるものも)の影響で、命を落とす人たちがいること、その人たちの声に社会が耳を傾けていないということです。

    たとえ支援に強制的につなげていても、厳罰を与えて薬物問題が解決する方向に進んだ国は世界中にありません。社会的には薬物に関連する問題や課題が複雑化していきます。日本も同様です。そのため、国際的には罰を与えないで地域の親切な支援を豊かにしようという政策に転換する国が増えています。

    大麻を使う若い人たちがどうも多くなっているらしい、大麻は健康に有害だ、そんなことをしているのは良くない、だから処罰しよう、という認識は、むしろ社会全体でみれば有害になっていると考えることができます。たとえば、SOSをあげたり相談したりすることが難しくなったりします。そこには健康の問題であるはずなのに、悪人だという差別や偏見のほうが強く広がるという深刻な社会的な悪影響があります。

    私たちNYANが提出した意見は、大麻には健康に有害な部分もあるというのであれば(お酒やタバコもそうであるように)、健康の問題として、困ったことがあったときに安心して話せる社会になったほうが社会全体にとって暮らしやすくなる、という考え方に基づいています。

    今の日本では薬物を使うことがあると安心して話せる場所がほとんどありません。場所がないのは、そうした話に適切に対応できる人たちがなかなかいないし、そうした場所を開くための予算もない、という状況にあります。たとえば、10代の子どもが大麻の使用についてなにか心配に思ったり不安に思っても、安心して相談できるような場所がまずもってないのです。厳罰化による社会への悪影響が色濃く表れていると言えます。この社会の現状を変えていくため、小さな取り組みですけれど、政府に意見書を提出したりして活動を続けています。

    今回、この時期に意見書の提出となったのは次のような背景もありました。

    「大麻規制検討小委員会」の第1回は2022年の5月に開催されましたが、そのときの議事録が公開されたのが8月末でした。そのため第1回で話された内容や委員会の方向性が確認できたのが、ようやく8月末だったのです。そこから要望書案の作成にとりかかり、9月中に厚生労働省の監視指導・麻薬対策課とやりとりをはじめたのですが、その時点で第2回(同年6月)と第3回(同年7月)の議事録もまだ公開されておらず、そのうえ9月の第4回はもうとりまとめの最終回になるということがわかりました。つまり小委員会に対して、市民社会から要望の声を届けることはとてもできるような状況ではありませんでした。そのため、とりまとめられた文書に対して市民社会からの意見として声を届けることにしました。

    意見書では次のことを伝えています。

    まず、この小委員会の議論及びとりまとめ文書の質の信頼性へ強い懸念がある、ということです。次の5つのポイントを挙げています。

    1. 当事者の不在
    2. 大麻使用への対応には精神科医は必須でないなかで支援実践の現場から精神科医だけが委員に選ばれたこと
    3. エビデンスのない偏見に基づいた意見への違和感
    4. スティグマへの無理解
    5. 国際的な非難をめぐる印象操作が含まれていること

    同時に、社会的孤立を強める大麻使用罪を創設しないで、当事者が真に必要とする支援の充実化についても意見しています。こちらでは次の3つのポイントを挙げています。

    1. 使用罪は社会的孤立を強めること
    2. 当事者を尊重する政策を選択できること
    3. 刑罰の代替として支援措置を導入すること

    意見書を公開していますので、よろしければぜひご参照くださいませ。

    さいごに、意見書の作成にあたって、ご助言くださった関係者のみなさまに心からお礼を申し上げます。

    この記事の続き

    薬物の非犯罪化を求めて:大麻使用罪の創設への懸念と女性受刑者の人権侵害の報告

    前の記事

    厚労省の大麻検討会とりまとめ文書は、誰に思いを寄せたものなのか<ウェブ記者会見の声明文>