この記事は、NYANが2020年6月26日に発信したFacebookページの投稿をもとに記事化したものです。
ラッシュ(RUSH)とは
ラッシュと呼ばれるドラッグがあります。化学的には亜硝酸エステル類とか、ニトライトと呼ばれる薬品です。この薬品は狭心症薬として用いられたりします。その一方、ラッシュという商品は、消臭剤やビデオヘッドクリーナー製品などとして売り出されたものが、娯楽用のドラッグとして世界各国で使用されるようになっていきました。海外ではPoppersと呼ばれることもあります。
ドラッグとしてのラッシュは、数センチの小瓶に入っていて、揮発するガスを鼻から吸うようにして使われます。リラックスする、筋肉の緊張がほぐれるなどの効果が数十秒ほど続く程度のものと言われています。セックスドラッグとして利用されることがよくあります。
このラッシュ/Poppersが、ドラッグとしてどのように規制されているのか少し掘り下げてみたいと思います。
ラッシュの規制に関しては、「ラッシュ(RUSH)の規制を考える会」のウェブサイトでさまざまな情報がまとめられています。
アジアのゲイコミュニティで聞いたことは…
ラッシュは多くの国でセックスドラッグとして使われています。筋肉の緊張がほぐれやすいという効果があるようなので、アナルセックスをするときに利用されるということもあります。
そこで、他の国ではラッシュがどのように規制されているのか、2018年9月頃にアジアのゲイコミュニティを中心に当事者や関係者たちに聞いたものがこちらです。
台湾
「販売」は認められていないけれど、「使用」は規制されていない。
実際にネットで購入できる。
使用や所持で逮捕されたことを聞いたことがない。
中国(北京)
よく使われている。
規制対象のドラッグではない。
使用や所持で逮捕されることはない。
韓国
セックスドラッグとして使われている。
「販売」については規制リストに掲載されている。
けれど、個人の「使用」や「所持」で逮捕されることはない。
タイ(バンコク )
セックスドラッグとして使用されている。
「販売」は規制されているけれど、オンラインで簡単に買える。
個人の「使用」や「所持」はとくに禁止されていない。
ミャンマー
タイ経由で持ち込まれている。
セックスドラッグとして使われている。
個人の「使用」や「所持」で逮捕されることはない。
シンガポール
セックスドラッグとして使われているし、簡単に手に入る。
個人の「使用」や「所持」で逮捕されたと聞いたことがない。
ラッシュを使う人を厳しく処罰するのは日本だけ?
尋ねたアジアの国では、何かしらの規制はあるとしても、個人がラッシュの使用やそのための所持で、実際に逮捕されたりはしていない様子がわかります。また、これらの地域ではもともとの薬物の取り締まりが厳しくない、ということでもありません。日本と同様の、あるいはそれ以上に薬物に対して厳しい処罰を与えているところも含まれています。
つまり、売ったり製造したりすることが規制されている国はあるけれど、使用したりそのために所持していた人を逮捕して刑罰を与えて、実名で報道して、退職に追い込んだりすることを他の国で聞いたことがありません。
なお、国連の薬物規制に関する国際条約のなかに、規制対象とする薬物のリストがあり、加盟国はこの条約を遵守することになっています。ラッシュ(亜硝酸エステル類/亜硝酸イソブチル)は、そのリストに掲載されていません。
何かしらのルールが必要だとするとき、ラッシュの個人使用・所持を厳しく処罰する科学的根拠は何でしょうか?ラッシュの成分はどのように科学的に検証されてきたのでしょうか?大麻草由来のCBDオイルとかアロマオイルとか、いろいろな商品があるけれど、どうしてラッシュには厳しく規制をするのでしょうか?
そして、世界的にラッシュはセックスドラッグとしてよく利用されています。ヘテロセクシャルのセックスでも使われるものですが、LGBTコミュニティでよく使用されていると印象付けられています。ラッシュの成分や効果が科学的に検証されることなく、安易に規制されることがアンフェアであると、各国でコミュニティが異議を申し立ててきました(ただし、そうした国でも使用した人が逮捕され、処罰を受けることは聞いたことがありません)。
NYANではこれまでに、ラッシュの規制を考える会 の主催イベントに協力をして参りました。コロナ禍のなか、イベントというスタイルではありませんが、フェアなラッシュの規制が実現してほしいとの思いを込めて、この記事に関するウェブチラシを作成しました。こちらのリンクからどなたでもダウンロードできます。
6月26日は Support. Don’t Punish. の世界アクションデー
オリジナルの記事は2020年の6月26日に投稿しました。6月26日は、国連が「国際麻薬乱用・不正取引防止デー」と名付け、世界の国々で「ダメ。ゼッタイ。」イベントが開催されたり、厳罰主義の成果が発表されたり、過去には薬物事犯者を処刑したりするなど、そういう日として利用されてきました。一方で、市民社会のなかからは、その日に「処罰ではなく、支援を」求めるために、声を上げよう、イベントをしよう、という活動が広がってきています。日本でもこれまでに数回、イベントが開催されています。