どうしたらドラッグをこの世界からなくすことができるかな?
ドラッグがあるから誰かしら使う人がいるんだよね。
ドラッグそのものがなくなれば問題解決。
ノードラッグ!って聞くもんね。
そうそう。
ドラッグを作る人がいなくなればいいのかな?
そもそもドラッグの原料みたいのがなくなれば、ドラッグ作ることできなくなるよね。
たしかに。けど、ドラッグって何でできてるの?
何だろう…
化学物質?植物系のものもあるよね。
そういうのが全部なくなっちゃえば問題解決ってこと?
んー、ちょっと違うような気もする。
原材料はなくならなくてもいいけど、ドラッグはなくなれよと。
ドラッグを作ったり、売ったりする人がいなくなれば、使うこともできない。
それでノードラッグ!じゃない?
ノードラッグ好きだね。
でもさ、ノードラッグって言うなら、ドラッグ全部ってことにならない?
売る人いなくなれってことなら、マ○キヨとかダ●コクドラッグとかもなくなれ!ってこと?
それは完全に業界にケンカ売ることになるね。
ドラッグストアは別でしょ。違法のものだけでしょ。
わかる。
けど、大麻は日本ではダメだけど、海外だとOKな国もあるでしょ。
そうそう。だから日本だけのノードラッグでいいんじゃない。
けど、日本だとドラッグストアとかで売ってるクスリを使ったりする人もいるじゃない?
そしたら、やっぱりドラッグストアや薬局だってアウトってならないの?
だからそれはやばいって。
じゃあ、何でノードラッグ!っていうの?
ちゃんとした説明、聞いたことないかも。
ノードラッグ(NO DRUG)は時代遅れ
数十年前に、ドラッグを撲滅しようと、ドラッグのない世界(Drug Free World)という表現が国連をはじめ、国際的に使われていました。ノードラッグ(No Drug)もドラッグに対してNOなので、同じ意味合いと言えます。
けれども、違法薬物だけではなく、処方薬や市販薬も医療目的を超えて使われることがあります。つまり、いわゆる違法な薬物だけではなく、処方薬や市販薬も、その使用方法によっては薬物と呼ばれるもののなかに含まれてくるのです。
ですので、ドラッグがなくなる、ドラッグのない世界というのは現実的ではまったくありません。もしノードラッグと言うのであれば、それこそドラッグストアや薬局で売っているようなドラッグもなくなれ!ということにもなりかねないので、適切な表現とは言えません。
「ノードラッグ」から「薬物乱用撲滅」に変わっても…
そこで、今ではNo DrugやDrug Free Worldという表現は、国際的には薬物乱用防止(No Drug AbuseとかStop Drug Abuse)という表現に変わってきています。これだと薬物・ドラッグがなくなるのではなく、薬物乱用がなくなる、薬物乱用を防止する、という意味になります。
世界の流れはそうなのですが、日本ではいまだにNo Drugという前時代的な表現も乱用防止とごちゃ混ぜで使用されています。また、日本では薬物乱用撲滅という表現もよく使われています。
ノードラッグじゃなくて、「薬物乱用」撲滅ってことなのね。
乱用ってどういうこと?
えっとね…
(調べる)
わかった。
ルール違反だって。
違法なドラッグを使ったり、病院や薬局でもらうクスリをたくさん飲んだり、遊びで飲んだりするのが、ルール違反。
それが乱用ってことみたい。
覚せい剤とか大麻だけじゃないんだね。病院やドラッグストアのクスリも、どっちも薬物ってこと?
そうなるね。
けど、ルール違反で飲んだ場合だから、ドラッグストアなくなれ!にはならないよね。
ほんとだ。
普通に飲んだらお薬で、遊びで飲んだら薬物!
わかるような、わからないような。
同じ物なのにね。
友だちとか知り合いで、遊びで使ってるって人いる?
えーっと…、何となくならね。
もし仲のいい友だちがそうだって知ったらどう思うのかな?
んー、友だちにもよる…かな。驚く場合もあるかもだし、それっぽいって思うこともあるかも。
そうだね。あと、何をしてるかでもイメージ変わるかなぁ?
どうだろうね。そこまで特別なことなの?
何となくそういうこともあるかも、って思う感じかな。
すごい悪いことしてるよね!薬物乱用撲滅だよ!とか、その友だちに言う?
言わないよー。
「撲滅!」みたいなのって、何か怖いよね。
だよね。体に良くないかも、気をつけたほうが…とかは思うけど。
撲滅よー!みたいキャラになるのは怖い。
仲の良い友だちにどんな風に話したらいいのかとか、そういうことなら知りたいかも。
なんか、乱用撲滅って『昭和』っぽい感じがしない?
昔な雰囲気。体罰とかに近い感じ。
もう2020年代なのに。
わかる。
予防は大事だと思うけど、こういうのって、同じ世代で話し合ったりしたほうが役に立ちそう。
薬物の「乱用」がもたらすスティグマ
薬物乱用の防止や薬物乱用撲滅という表現についても、国際的には市民社会から、とくに薬物使用がある当事者と薬物使用に関わる支援などをしている立場の人たちから、不適切であると主張されています。
日本語では乱用で、英語ではabuseとなります。英語のabuseには乱用や悪用に加えて虐待するという意味もあります。つまり、abuseというのは加害行為や悪い行為を表しているのです。薬物の場合も、ルール違反をしたということが悪い行為になるのでしょう。ですので、乱用した人は犯罪をした人と、とても近い位置付けにいることになります。
ところが、ひとつ前のページ(「ドラッグを使ってもいいの?ダメなの?」)で取り上げたように、今は薬物の使用は体や気分に何かしらの影響を与えるかもしれないけれど、それを犯罪として見ることはよくない、と考える人たちが増えてきています。なので、乱用という表現も、悪人・犯罪者というレッテルを貼るもの(=スティグマを生み出すもの)であり、不適切だと声をあげている人たちが増えています。
実際に、保健や医療の分野では乱用(abuse)という表現がオフィシャルに使われることは減っていて、使用(use)が選ばれています。例えば、日本では依存症/アディクションと呼ばれているものが、英語ではdrug use disorder、日本語訳は「薬物使用障害」と表現されたりしています。
青少年に対する効果的な薬物未然防止教育は対話型
薬物を使ったことがない人や若い人を対象にした、薬物の使用を未然に予防するという取り組みは重要です。国連では、薬物使用の予防のための国際基準を発表しています。さまざまな国や地域で効果が実証された方法がまとめられています。
そのなかで、例えば青少年を対象にした効果的な方法として、きちんとした知識を持つピア(同年代の仲間など)による対話タイプのプログラムが挙げられています。反対に、恐怖心を高めるような情報を一方的に提供することは効果がない、または逆効果であると指摘されています。
薬物の使用を未然に防ごうとする際に、防犯という視点に立ち、乱用撲滅のような抑圧的な向き合い方をしてもうまくいかないことが実証されてきたのです。暮らしや健康(保健)に基づく教育を、その対象年齢に沿うようにデザインする必要があります。ある程度の年齢を過ぎれば、対話することで知識や理解を深めていく取り組みができるはずです。
NYANでは、学生をはじめさまざまな人とともに対話型の薬物教育を開発したり、開催したりする取り組みをしています。ご関心のある方はどうかお気軽にお問合せくださいませ。