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日本政府への要望:大麻をはじめとする薬物の対策において、 若者らを社会から排除せず、費用対効果の高い“刑の代替支援措置”の導入を

    <更新情報:2021年6月9日>
    共同申入れ賛同団体に、(特活)自立生活サポートセンター・もやい(代表 大西連)が加わりましたので更新しました。

    2021年5月27日

    厚生労働大臣 田村 憲久 様

    近年の特に若年層における大麻事犯の検挙者数の増加などの背景を受けて、現在、「大麻等の薬物対策のあり方検討会」(以下、本検討会)が開催され、「①大麻規制のあり方を含めた薬物関連法制のあり方」、「②再乱用防止対策(依存症対策)を始めとした薬物関連施策のあり方等」が議論されています。そこでその議論でも取り上げられる日本の薬物対策のあり方において、私たちは市民社会の一員として、日本政府に以下のことを要望します。

    • 厳罰による、人(主に薬物使用がある人とその身近にいる人)に対するスティグマを解消すること(薬物関連法制のあり方、未然防止を含む対策のあり方・表現の見直しなど)
    • 違法の薬物に限らず処方薬・市販薬(医療用麻薬、向精神薬等)、そしてアルコールやたばこなど物質使用による健康・生活上の悪影響に対して、司法ではなく地域社会において生活、保健、福祉、医療等に関する支援が提供されるシステムを構築すること
    • 違法の物質も含め薬物使用がある人のなかで、女性(母子)・障害者・LGBTQ・未成年・高齢者・移住労働者・貧困世帯など社会的脆弱性がある当事者、そして厳罰によるスティグマの被害を受ける家族たちの声に耳を傾け、政策策定の会議等に参加できるようにすること
    • 費用対効果が高く、その効果が科学的に実証された対策の研究及び実践のために予算と人員を配すること

    以上を実現するうえで具体的な対策として、

    • 現状の刑罰のなかに、一定量を下回る薬物の所持等の行為及び使用については、刑罰の代わりに福祉・保健等の支援機関につなげ、必要な支援を自発的に受けられるようにする“刑の代替支援措置”を導入すること

    上記要望の理由は以下の通りです。

    • これまでの薬物対策において、厳罰政策に起因する社会的スティグマにより、薬物使用がある当事者及び家族など身近にいる人たちの多くが、社会復帰が困難になる、転居しなければならない、心身の健康を崩すなど、社会的な排除に苦しんでいます。国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)のゴール3には、『あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を保障する』とあります。薬物使用当事者やその身近にいる人々の排除が解消されない限り、SDGゴール3をはじめ、SDGsの達成も実現しません。
    • 薬物の問題はSDGsのほぼすべてのゴールに関係しますが、今回の要請はそのなかでも特にゴール1(貧困の解消)、ゴール3(健康の向上と福祉の促進)、ゴール5(ジェンダーの平等)、ゴール16(公正と平和)の実現に向けたものになると考えます。
    • 一般的に、自ら望んで薬物依存症になる人はいません。必ずしも強制や処罰の抑圧がなくても、若い人たちを含めみな、変わろうとする意欲を持つことができます。
    • 処罰される、前科がつくことを恐れずに済むと、より多くの人が相談しやすく、支援を求めやすくなります。
    • 若年層や女性、障害(依存症を含む)がある人を中心に、貧困や被虐的な環境にある、十分な教育を受けられない、など脆弱性が高い人ほど、たとえ軽微な薬物事犯であってもそれにより逮捕・処罰を受けることで、退職や退学になる、前科がつく、住居を失う、出所後の就労困難など、ますます貧困や他の犯罪に追い込まれやすくなり、何度も逮捕されることになるなどの悪循環を引き起こしています。
    • 現状では、刑事司法(麻薬取締部、警察、検察、裁判所、保護観察所、刑務所など)は単純使用・所持など軽微な薬物事犯に対する処遇の割合が圧倒的に高い事態となっています。税収による貴重な財源を、軽微な薬物事犯者に対処するために流用することで、刑事司法制度が弱体化することへの懸念が国際的に指摘されています。
    • 薬物依存症を抱える人に対しては、刑事司法の処遇としてではなく、地域社会における生活、保健、福祉、医療等に関する支援により対応できるはずです。刑事司法は薬物に関する軽微な事犯者より、組織的な犯罪ならびに、窃盗・詐欺・強盗・傷害・道路交通法違反、さらにはますます顕在化する配偶者暴力に対する司法介入など、加害・被害が発生し得る事犯者等への対応に重点を置くことが、社会の安全と公衆衛生及び個人の健康の向上に貢献するものと考えられます。
    • 取締り重視の対策により、いわゆる処方薬及び市販薬(医療用麻薬、向精神薬等)の本来の目的とは異なる使用について、適切な支援対策がほとんど講じられてきていません。コロナ禍のなかその事態がますます顕著化しています。
    • 薬物使用がある女性(母子)・障害者・LGBTQ・未成年・高齢者・移住労働者・貧困世帯など、社会的脆弱性の強いダイバーシティ・コミュニティの当事者や、家族等その身近にいる人たち、あるいは協働する専門家たちが政策策定に参加することで、より公正な対策を打ち出すことが可能となります。
    • 薬物依存症等の背景には、貧困、障害、心身の不調、被虐的な環境などが関連することが多くあります。一定量を下回る薬物の所持等の行為及び使用を軽微な事犯とみなし、刑事司法による処遇から離れ、その代替措置として地域の支援機関につなげ、そこで本人が暮らしやすくなるのに役立つ生活・保健・福祉・医療等に関する支援を自発的に利用できるようにすること(“刑の代替支援措置”)が、本人の尊厳を守り、生存のために役立つものと考えられます。なお、加害・被害が伴わない軽微な薬物事犯には、使用及び個人使用レベルの所持・譲渡・譲受・製造・輸入・輸出が含まれると考えます。

    本書面にて要望する対策は、刑の一部執行猶予制度を平成25年に導入したように、既存の規制の一部に刑罰の代替措置を導入するものです。刑罰の代替支援措置の導入は、INCB(国際麻薬統制委員会)を始めさまざまな国連機関が推奨する対策の促進にも合致しています。

    このような規制により、薬物を使用するという事例が増えることを懸念する考えがあるかもしれません。しかしながら、むしろ排除への恐怖が軽減し、地下に潜っていた事象が顕在化するようになり、その結果、保健・福祉・医療・教育にアクセスするハードルが下がり、個人の健康及び公衆衛生上効果的な対策が立てられやすくなると考えられます。つまり、個人の健康及び公衆衛生の向上に寄与することになります。

    軽微な事象を取り締まろうという対策は、これまでの日本の薬物対策全体を検証しても効果を発揮していません。薬物問題は小さくなるどころか、使用される物質が変わり、介入のニーズがある人たちは減少していません。軽微な事象に対する薬物の取締りの強化に多額の税金を投入しても、薬物問題はさらに悪化し、スティグマによる被害を受ける人たちがますます増えていくことは、これまでの海外諸国の取り組みより想定できるものです。やがて失敗であったと方向転換しなければならなくなる、そうした海外諸国の経験から私たちは学ぶことができるはずです。日本社会全体の安全と健康のためにも、早急に“刑の代替支援措置”の導入を求めます。

    呼びかけ団体
    日本薬物政策アドボカシーネットワーク(代表 上岡陽江)

    共同申し入れ賛同団体 (法人名除く五十音順)
    (特活)アフリカ日本協議会(代表 玉井隆、津山直子)
    (一社)ウェルク(代表 納米恵美子)
    (特活)エイズ&ソサエティ研究会議(代表 根岸昌功)
    (特活)女性ネットSaya-Saya(代表 松本和子)
    (一社)つくろい東京ファンド(代表 稲葉剛)
    (特活)ぷれいす東京(代表 生島嗣)
    (特活)akta(代表 岩橋恒太)
    HUMAN RIGHTS WATCH(アジア局プログラムオフィサー 笠井哲平)
    <提出後に賛同した団体>
    (特活)自立生活サポートセンター・もやい(理事長 大西連)