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ハームリダクションとは①:援助職者ができること〜ケイさん(社会人)の場合

ケイさん(社会人)とドラッグの関係

ケイさんから薬物に関して、こんな相談を受けたとします。

こんにちは。ケイです。

パートナーと子どもと暮らしてます。仕事もしてます。
家族との関係は良いです。家事も子育てもしてます。

けど、ちょっと前から職場でいろいろと変化があって、すごくストレスを感じるようになりました。

あまりにストレスがたまると、休みの日に(違法の)ドラッグを使います。
月に1〜2回くらい。もう何年も使ってなかったけれど、数ヶ月前から久しぶりに。
おかげですごくリラックスできて、何とか乗り越えることができてるんです。

ドラッグは昔からの友だちに分けてもらってます。
…それで、じつは昨日受け取ったときに、今回のはいつもとは違うルートで来たから、少し違う感じかもしれない、って言われたんです。

見た目にはあまり違いがわからないんだけど…。
昔、そういうことがあったとき、次の日に調子悪くなったことがあったから、またそうなったら嫌だなぁって思って…

いま、手元にあるものを使っても大丈夫かわからなくって、そのことで困ってます。

ケイさんがいまの困りごとについて話してくれました。(これまでの国内外の活動を通して、出会ったり、見聞きしたことから作成した架空のエピソードです)

援助職として思い浮かべること

いまの日本でこうした相談がどこかに寄せられることは、現実的に考えにくそうです。それはこういう人がまったくいないから、ということではないはずです。

地域に「ハームリダクション」があれば、きっとこのような困りごとも徐々に見えてくるようになるのだろうと思います。

もし援助職者として、ケイさんからこの話を聞いたなら、どのようなことを思い浮かべますでしょうか。

もしかしたら(実際に伝えるかどうかは別として)心のなかで…

警察に自首したほうが…。(私が通報しないといけない?)違法行為を見過ごす訳にはいかないし、もっと大きな困りごとになるリスクが…。

いろいろ大変なんだね。でも、心配。いますぐドラッグを使うのをやめないと…。もし逮捕されたら家族が大変なことになるよ。親なんだから…。

家に置いてあるドラッグをすぐに捨てて、パートナーとよく話したほうが…。治療とかあるよ。回復できることだから。

ドラッグをやめることに向き合うことが、結果的にはケイさんやケイさんの家族にとって良いはず…。

仕事つらいんだね。だけどドラッグじゃない他の方法でストレス発散できないかな…?

話してくれてありがとう。困ってるんだね。何もしてあげられないかもしれないけれど、見守ってるよ。なにか困ったことがあったら、いつでも言ってね。

などなど、思い浮かぶことがあるでしょう。

どれもケイさんや家族のことを思うからこそと想定しています。

ただ、ケイさんの困りごとは、入手したドラッグを使うのがどれほど安全かどうかわからない、ということです。ここで思い浮かべていることは、ケイさんが求めるものに応答できているかと考えると…、どれも難しい感じです。

援助職としてアクションの選択

思い浮かんだことは反応的なことですが、どのような行動(アクション)で応答するかは、選択できます。

(求められていないけれど)ケイさんがドラッグを使うのをやめるためにできるアクション

ケイさんがいま求めていることに対して、できるアクション

このなかで、Bを選ぶことができます。Aやその他のアクションを選ぶことももちろんあるでしょう。ただ、もしケイさんからこの話を聞いただけで通報を選ぶとしたら、それは援助職として誤っていると捉えます。そのことについては今後取り上げます。

Bに関心がある人にとって、「ハームリダクション」はフィットすると思います。この「ハームリダクション」という用語の意味や定義などは、最後の方でしています。今は「ハームリダクション」はいったん横に置きつつ、Bに基づきどんなアクションができるか、さらに具体的に考えていきます。

ポイント1:いま求めていること

まず、ケイさんが“いま求めている”ことに注目します(ポイント①)。

ケイさんはいま警察に自首することを考えているわけではないですし、薬物をやめるための治療や回復も求めていません(そもそも必要かどうか、という重要な視点もあります)。いま治療や回復を求めている、ということであれば、それに応えることができます。

求めているのは、困りごとがなくなるためにいま役立つものです。今回は、入手したドラッグを使うことへの不安を解消させてくれるもの、ということになりそうです。

では、なにが役立つでしょうか?

確実なのは、前のと同じドラッグを渡すこと?

とか

前のと同じものが手に入るところを紹介すること?

などが考えられます。まさにそのとおりです。

とはいえ、援助職としてそうした支援ができるのか、それをするのが適切なのかと悩むかもしれません。そんな支援はあり得ないのでは、と思ったとしても無理はありません。

「ハームリダクション」なら可能です。

それはケイさんから求められたから、という理由だけではありません。むしろ、ケイさんに役立つなら・求められるなら何でも、というのは適切な援助関係とは言えません。

ポイント2:健康や命を守ること〜ドラッグを渡すこと?

そこで、

ケイさんの“健康や命を守るため”にできることに焦点を当てます(ポイント②)。

こうすれば求められたことに何でも応じる、ということにはなりません。健康や命を守るために役立つことをする、という理念に基いて支援することができます。

そして、健康や命を守るためなら、薬物を渡したり入手できるところを紹介したりすることも、じつは選択肢に入ります。

具体的にはこういうことです。

ケイさんが使用しているドラッグと同じもの、または似たような成分のものが医療機関で処方できるかどうかを探る、ということです。

たとえば、日本では流通していない(と思っている)薬を海外から個人輸入して使っている場合があります。日本では違法となっているものもあるかもしれませんし、未承認ドラッグということもあり得ます。

他にも、日本には馴染みませんが、ヘロインを使用する人に対して、ヘロインまたは似た成分の麻薬を処方するプログラムも海外にはあります(今後、取り上げます)。

ポイント2のつづき:健康や命を守ること〜いま役立つ

医療機関で処方できるものは限られています。けれど他にも、ケイさんの健康や命を守るために、いま役立つことがあります。

例えば、こんなことをいっしょに話してみることができます。

今回入手したのは使わないで、前のルートで手に入りそうかどうか、少し待ってみることはできそうかな?

いつものとは違う効き方をするかもしれないから、少しずつ使って様子をみるのはどうだろう?

今の方法より、もっと安全なやり方があったり、そのためのグッズがあれば、それを試してみるのは?

2連休をとって、次の日も休みのときに使ってみるのはどうかな?

これまでのものと成分が違うとも限らないわけだから、成分を調べてみるのは?

一人で使うのが不安だったら、見守ってもらいながら安全・安心にできる場所があるから、そこで使うのはどうだろう?

海外にはあるけど、日本では難しいものも少し含まれていますが、だいたいはできそうです。共通するのは、当事者視点で考えていることです。

Q:どうしてこれがケイさんの健康や命を守ることになるの?

A:正規に流通していない薬であれば、成分がいつどのように変化したとしても把握するのは困難です。これまでと同じと思って、同じ量で同じ頻度で使ったところ、成分が変わっていて心身にダメージを受けることがあります。最悪なのは事故死です。

数年前、危険ドラッグを使用したことで健康を害した人が急増しました。成分の変化に十分対応できずに起きたものです。海外では今、これまで以上に多くの人が安価なドラッグの使用で命を落としています。健康や命を守るための支援の必要性が、ますます高まっているのです。

Q:それならば、ドラッグをやめることが健康や命を守ることにならない?

A:もちろん、それもあります。ただ、それしか方法がない、ということではありません。いま希求されていることに対して、役立つことができます。

ポイントのまとめ

最初のポイントは、誰を中心にするかです。「ケイさんにとって役立つこと」と「ケイさんが求める役立つこと」は一致しない場合があります。なぜなら、援助職側が「ケイさんにとって役立つ」と判断することが、ケイさんが求めるものと一致しない場合もあるからです。

一致しないことが悪いとは限りません。ただ今回の場合、当事者視点を尊重し「ケイさんが求めること」に応じたい、と援助職は選ぶことができます。

そしてそれ以上に、自分が求める支援をケイさんが自発的に選んで良い、という環境が整備されているべきです。

次に、当事者視点でいま役立つ、ということも重要です。

ケイさんと薬物の関係性が今後どうなるかを勝手に判断できません。数ヶ月後には使わなくなるかもしれないし、こんな感じで時々使うかもしれないし、もっと頻繁に使うようになっていくかもしれません。誰かが決めつけることではありません。いまのケイさんが役立つと思える当事者視点に基づく支援を、ケイさんは選んでいいはずです。

なお、ここで紹介したのはケイさんを想定したものです。薬物を使う人誰にでも、というものではありません。個別に判断することが必須です。

薬物を使う当事者視点に立つ支援

自分自身もいまドラッグを使うことがある人なら、当事者視点に立脚するこうした関わり方ができる、と思いやすいかもしれません。同時にケイさんも、支援する側が同じようにドラッグを使っている人なら、より安心感を抱きやすいでしょう。

実際に、「ハームリダクション」は薬物使用がある当事者たちが中心になって誕生し発展しています。当事者視点に立つ支援で、薬物を使う人たちの健康や命を守っています。

では、当事者じゃないとできないのか、というとそういうことではありません。世界中にさまざまな「ハームリダクション」のサービスがあり、薬物を使うことがある人ももちろんですが、当事者性の有無に関係なく、保健(看護)・福祉・医療・心理などの援助職者が当事者視点に基づく活動をしています。

地域にあれば、つなげることができる

うちではできることがないかも。けれど、○○というところで□□な支援が受けられるよ

もし地域のなかで、こうしてケイさんに関われるところがあれば、自分の所属する機関ではアクションがとれない、心配だけれど見守ることしかできない、という場合でも、「ハームリダクション」をするところにつなげることができます。

今すでにある支援に加えて、地域のなかで「ハームリダクション」を取り入れた支援も始まることが重要と考えます。そうしたことは、次回取り上げる予定でいます。

ハームリダクションの意味と定義

では、ここでハームリダクションという用語について、説明していきます。

ハームリダクションの意味

英語のハーム=harm(害、悪影響、ダメージ)とリダクション=reduction(減らすこと、低減)で、害を減らすという意味。日本語訳は被害(危害)低減など。

続いて、薬物の分野におけるハームリダクションの定義を。ハームリダクション ・インターナショナル(Harm Reduction International)という団体が発表しているものです。

ハームリダクションの定義

ハームリダクションとは、薬物使用・薬物政策・薬物に関係する法律が、健康・社会・司法に及ぼす悪影響を最小限にすることを目指すプログラム・政策・実践

Harm Reduction International: What is harm reduction?より
日本語訳:NYAN|日本薬物政策アドボカシーネットワーク

図にするとこんな感じでしょうか。

今回はここに注目しました。

ケイさんの薬物使用が、ケイさんの健康に及ぼす悪影響を最小限にすることを目指す実践(やプログラム)、ということになります。

わかるような気もするけど、違法行為を支えることにならないの?

ハームリダクションは、薬物を使う人の健康や命を守るものです。そして、薬物の使用を奨励・抑制するものでもありません。薬物を使うことがあるという現実のなかで、健康や命を守るために、いまできることをします。

ハームリダクションがある社会と無い社会

援助職として、健康を崩す人がいたり、命が失われることを目の当たりにすることがあれば、心が(激しく)痛みますし、何かしたいという思いが湧き起こります。新型コロナウイルス禍において、薬物使用がある人たちのなかで、すでにそうした事態が起きています。

薬物を使う人が「私の健康や命を守るために、いま役立つ」と思えるメッセージを発信し、実際に支援をするのであれば、社会的な抑圧によりアンダーグラウンドに潜みがちな人のSOSをキャッチできるかもしれないし、つながるチャンスが増えていくはずです。

ハームリダクションのある社会のほうが、誰もが生存できる可能性が高くなります。

なんとなくわかる感じかもしれませんし、モヤモヤしてくることもあるかもしれません。これから3-4回に分けてハームリダクションについて取り上げていきたいと考えています。次は第2回目「ユウさん(学生)の場合」を予定しています。

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