2021年の6月から今年の3月までに、300人以上の人たちと、1,800件に及ぶチャットをしてきました。そのうちの9割以上は、いま薬物使用がある人たちとのチャットでした。
昨年ハームリダクション東京の活動をスタートして、あっという間に1年が過ぎました。主な活動は週に4日オープンする「OKチャット」です。クスリ・ドラッグ・薬物を使うことがあると安心して話せる場所を、オンライン空間に開きました。この間に、たくさんの人たちとそこで出会い、やりとりをしました。また、そのほかにも研修会などに呼んでいただいたり、メディアのインタビューを受けるということもありました。
先行きが見えないコロナ禍に、薬物使用がある人たちのなかでますます孤立化が進んでいる、そんな懸念が募っていき、待ったなしと思って、この活動に取り組み始めました。いろいろな人に支えてもらいながら、あっという間の1年でしたが、初年度の活動のレポートを作成することができました。少しでも多くの方に活動を知ってもらえたら、そして応援してくださる方が増えたらとても嬉しいです。そういう思いを込めながらまとめました(文末にリンクがあります)。
ハームリダクションを学んでいくなかで、当事者が中心になるということをずっと教わってきました。私たちの活動のなかでは、薬物使用がある当事者が中心にいます。その使用が依存である場合も、そうでない場合もあるでしょう。いまの暮らしのなかで使うことがあるという人もいれば、最後に使ってからしばらく経過している、ということもあるかもしれません。
外国では目にしますが、日本では、いま何かしらの薬物(違法性があるもの、ないもの)を使用することがある当事者が、自ら声をあげたり当事者運動をしたりすることは非常に困難です。そこで、日本でできそうなことのひとつとして、当事者と関わる身近な立場から、声をあげる(権利擁護する)という方法があります。メディアを通して発信する、ということもできます。
この1年でハームリダクション東京の活動が何回かメディアに取り上げられました。多かったのは、市販薬や処方薬のOD(オーバードーズ=過量服薬)に関するトピックでの取材でした。ときにはたくさんの反響が寄せられることもありました。
最初に届く反響は、その人自身がかつてODをしていたことがある人たちで、こうした活動を知って嬉しい、応援している、という本当に心温かい声でした。つづいて寄せられたのが、ODすることがある女性や子ども・若者と何かしら関わっている援助職の人たちでした。ODがとても身近な話題で、この活動を大切に思うと、励ましの声を複数いただきました。とても心強い気持ちになりました。
同時にこんな声もいくつかありました。海外での“overdose”と意味合いが異なるという指摘です。北米をはじめさまざまな国で、ここ何年も薬物使用がある人たちのなかで、オーバードーズによる甚大な健康被害が続出し、命を落としている人たちが非常にたくさんいます。本当に憂慮すべき事態が続いています。とても粗悪な成分の含まれたドラッグが安価で出回っていて、それが混入されているのを知らずに摂取し、身体に多大なダメージを受けてしまうのです。
つまり、海外で薬物使用者たちの間で使われるoverdoseという用語は、違法性のある薬物を使用した際に、粗悪な成分を過量に摂取してしまった事故(深刻な健康被害)の意味合いで用いられることが多く、一方で、日本でオーバードーズというときは、市販薬や処方薬を、その薬剤の本来の用法・用量とは異なり、多量に摂取する行為そのものを指すことが一般的です。
それゆえ海外の(オリジナルな)ODと異なる意味合いをメディアで伝えることはいかがなものか、という批判がありました。こうした意見は、海外の薬物使用者コミュニティで当事者たちが置かれている深刻な状況へ思いを寄せるとき、もっともと思えます。
同時に、日本では日本の当事者たちが置かれている状況を鑑み、日本の意味合いでのODについて声を上げていくことが、やはり欠かせないという思いも抱きます。欧米を中心とする海外文化における意味合いも、もちろん大切にしたいです。ただ、ここ日本では、市販薬や処方薬を過量服薬する人たちのコミュニティで、その行為を「オーバードーズ」・「OD」と日常的に当事者たち自らが表現しています。しかもそれはここ最近に始まったことではなく、もう何年も前からなのです。
なによりも、反響のなかでもっとも大きいのは、その当事者たちから寄せられるチャットです。ときどき、このチャットのどこに関心を寄せてもらえたのか尋ねることもあります。そのとき、「オーバードーズ」や「OD」がキーワードになったと教えてもらうことが多くあります。
私たちの主な活動は、オンライン空間に出向いていくアウトリーチです。アウトリーチするためには、そのコミュニティにいる人たちに関心を寄せてもらえる、そして敷居が低いと思ってもらえるようにする姿勢が欠かせません。メディアを通して「オーバードーズ」について発信することで、出会うことができた人たちがたくさんいました。
海外で起きているODをめぐる状況について声を上げていこうとすることも、日本でODをすることがある当事者へアウトリーチしようとすることも、共通するのは当事者を中心にしたいという考えであると思えます。この活動を通して、アンダーグラウンドに潜むことでなんとか安心感を保つことができるかもしれない、そういったさまざまな人たちと出会い、つながります。今は直接自分ではとても表現できない、あるいは発信できない思いや考えを、どのように社会に届けていくことができるかを模索しながら、これからも奮闘していきたいです。
私たちの初めての活動レポートです。関心を寄せていただけましたら、そして心温かな応援をいただけましたら、とても嬉しいです。
ハームリダクション東京
<NYANはハームリダクション東京の広報活動を協働しています>
ハームリダクション東京 2022年活動レポートはこちら