クスリ・ドラッグ・薬物を使うことをやめる。これから二度と使わないようにする。そうした関わり方があります。必要な人にとって大切なことです。ただ、そうした関わり方が馴染まない、今は適さない、だからそうした関わりに興味を持たない、あるいはそこからこぼれ落ちる人たちがいることも事実です。決して少なくないと想像します。その人たちを、どうにかしてそこに引き寄せようと勧奨したり義務付けようとしたりすること(本人にとっては追い詰められること)は、その支援を提供する側と本人(そして家族たち)の両方にとって、かえって悲劇的な事態をもたらすこともあります。
それなのに、うまくいかないからとますます勧奨する・義務づける(追い詰める)パワーを強めていこう、広めていこうという動きが起こります。その結果、うまくいった人は英雄視されたりすることもあります。ですが、もともとそうした関わりに馴染まなかったり、適さなかったりする人たちの声は尊重されず、ほとんど研究もされず、見過ごされてしまいやすくなります。犯罪だからやめましょう、病気だから治しましょう(やめましょう)というキャンペーンだと、どちらであっても「薬物を使う(乱用)=悪い、失敗」、「薬物(の乱用)をやめる=正しい、成功」という分断が生じやすくなります。
薬物の依存を病気だとする捉え方があります。もし誰かが何かの病気になり、治療を受けて回復したとしたら、それは素晴らしいことでしょう。ただ、病気になり治療を受けても思うように回復しない人もいます。適切な治療が受けられない場合もあります。そうして命を落とす人もいます。その人たちは回復していないから英雄じゃない、ということではないし、その人たちに対して回復した人をロールモデルにするように周囲が勧奨すれば、本人の気持ちをどれだけ思いやることができているのだろうか、と思わずにいられません。
だから薬物を使用することがある人の健康や暮らしに着目します。使用があってもなくても主役になれるし、ロールモデルは幅広く個人が自由に決めていいのです。例えば、クスリ・ドラッグ・薬物をその人のペースで繰り返し使うこともあって、そして(本人と周囲の人が)楽しく暮らしている、働いている、育児している、という現実もあります。
回復の捉え方は人それぞれ異なっていていいはずです。やめていることで暮らしやすくなっていることがあっていいし、利用することがあって暮らしやすくなっていることもあるでしょう。
そして、そもそも何かしらのクスリを使っていても(違法のものでもそうでなくても)、依存症になっている人は1割くらいだという現実もあります。人によっては、回復という向き合い方がしっくりこないとしても、自然なことだと言えます。
こうした思いで、ハームリダクション東京を2021年夏にスタートしました。
自主制作でスマホ向けのサイトをこしらえての船出です。クスリ・ドラッグ・薬物について、使うことがあるって安心して話せる/使うことがある人の健康と暮らしに役立つ、そんなサービスを提供しています。いちばん身近なサービスは、なんでも話してOKな『OKチャット』です。全国どこからでも、誰でもLINEかTwitterでチャットできます。LINEは通話もできます。市販薬・処方薬のODチャット、大麻チャット、Teensチャット、Womenチャット、LGBTQチャットもあります。
本人がこちらにくるのをただ待つのではなくて、こちらからいるところに出会いにいく。できるだけ敷居を低くして、利用してもらいやすくする。それがハームリダクションの大切なポイントだと学んできました。そこで、SNS空間でオープンすることにしました。あたたかく見守っていただきながら、成長していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。